電力は、必要なときに必要なだけ供給できる状態を、誰かが絶えず支えていなければ成り立ちません。ところが自由化によって発電が競争にさらされると、ピーク時などに必要となる電源は稼働機会が限られ、電気(kWh)を売る収入だけでは固定費の回収が難しくなりうる、という課題が生じます。放置すれば、将来必要な供給力の確保が難しくなりかねません。日本はこれを、行政が建設を命じるのではなく市場の設計で解こうとしてきました。その中心に置かれたのが容量市場で、以降、異なる時間軸やリスクに応じた仕組み(長期脱炭素電源オークション、予備電源)が段階的に追加されてきました。本ページでは、それぞれがどの課題に対応して生まれたのかを、時系列で整理します。
最終更新 2026-09 / 出典は各項目のリンク先(審議会・OCCTO 等)
一つの市場だけでは対応しきれない課題に応じて、仕組みが追加されてきました。
日本の容量市場は、英国(2014年〜)や米国 PJM の容量市場を下敷きにしています(数年前に供給力を確保する点も共通)。一方で、テキサス(ERCOT)は容量市場を持たず価格の高騰で投資を促す「エナジーオンリー市場」、ドイツや北欧は休止電源を確保する「戦略的予備力」という別の道を採ります。そして「容量市場は既設電源の維持に寄り、新設が出にくい」という論点は、英国など先行国でも共通して指摘されてきました。出典: Clean Energy Wire / CNIC(英)
発電事業の収入は、電気(kWh)を売って得るのが基本です。しかし、ピーク時などに備える電源は稼働機会が限られ、建設費や維持費といった固定費を売電収入だけでは回収しにくくなります。競争的なkWh市場では価格が限界費用を基準に形成されるため、固定費の回収に必要な収入を十分に得られない場合があります。この、供給力の維持に必要な収入が市場から得られにくくなる状態をミッシングマネー(不足する収入)といいます。
そこで導入されたのが、電気そのものではなく「供給できる能力(kW)を保有していること」に対価を払う仕組みです。これが容量市場です。オークションは毎年行われ、原則として4年後に必要となる供給力をあらかじめ確保します(対価は対象となる1年度分)。確保された電源は、売電収入とは別に、供給力を提供できる状態を維持することへの対価を受け取ります。
その費用は「容量拠出金」として負担され、各社の料金設計を通じて、最終的には需要家の負担となりうるものです。注
市場に委ねるだけでは供給力の確保が難しくなりうる、という問題認識(ミッシングマネー)を国が採用した。
制度の運用が始まると、2024年度を対象とする初回メインオークション(2020年実施)では、約定価格が上限価格に近い14,137円/kWとなりました。これは、投資回収に必要な収入の目安である指標価格(net CONE)9,425円/kWの約1.5倍にあたります。約定総額は約1.6兆円にのぼり、この費用が最終的に需要家負担となりうることから、価格水準や負担のあり方をめぐって議論が起きました。
容量市場では、確保する供給力の量に応じて支払額を決める「需要曲線」を用い、その上限価格は指標価格(net CONE)を基準に設定されます。約定価格はその後、年やエリアによって大きく変動しています(下表)。
約定価格は上限価格に近い 14,137円/kW(指標価格9,425円/kWの約1.5倍)、総額約1.6兆円。負担のあり方をめぐる議論につながった。
応札の増加などにより、エリアによっては約5,000円台まで低下。以後は上昇に転じる年もある(下表)。
対象実需給年度ごと。約定価格は市場分断によりエリア差があるため代表値・範囲で示す(円/kW)。
| 対象実需給年度 | 約定価格(円/kW) | 指標価格 net CONE | メモ |
|---|---|---|---|
| 2024 | 14,137(全国一律) | 9,425 | 初回。上限価格に近い水準 |
| 2025 | 約5,200〜5,800 | 9,372 | 応札増で大きく低下 |
| 2026 | 約5,800〜9,000 | 9,557 | 市場分断が広がる |
| 2027 | 約7,600〜15,100 | 9,769 | 北日本で上昇 |
| 2028 | 約8,800〜14,800 | 9,875 | エリア差が拡大 |
| 2029 | 全エリアが指標価格超(〜約15,100) | 10,075 | 過去最高・総額約2.2兆円 |
読み取り:約定価格は年やエリアによって5,000円台から15,000円超まで大きく振れます。一方、指標価格(net CONE=投資回収に必要な収入の目安)はほぼ横ばいです。約定価格が指標価格を下回る年もあり、容量市場の収入だけでは長期の投資回収を見通しにくい——これが、次の長期脱炭素電源オークションが求められた背景の一つです。出典: エネ庁 容量市場について(2026年1月)
容量市場が確保するのは、原則として1年度分の供給力です。上でみたように約定価格は年ごとに大きく振れるため、長期的な収入の見通しが立ちにくく、大きな初期投資を要する脱炭素電源(再生可能エネルギー、蓄電池、原子力、水素・アンモニアなど)の新設では、プロジェクトファイナンスを含む資金調達や投資判断が難しくなります。
容量市場は、主に既設電源の維持のために機能しているのが実態であると、資源エネルギー庁も整理しています。そこで、脱炭素電源の新設を対象に、原則20年間にわたり容量収入の予見性を確保する仕組みが設けられました。これが長期脱炭素電源オークションです(制度上は容量市場の一種として位置づけられます)。
脱炭素電源の新設に、原則20年の容量収入の予見性を与える枠組みを整理した。
脱炭素電源は募集400万kWに対し約定401万kW(応札は781万kWと募集を上回った)。LNG専焼火力を含む総約定は976.6万kW・年約4,102億円で、うちLNG火力が約575万kW(過半)。
脱炭素電源426万kW、LNG専焼火力304万kWが落札。総約定に占めるLNGの割合は初回より低下した。
予備電源は、容量市場などで確保する供給力とは別に、計画上、休廃止となる高経年(老朽)電源を、再稼働できる状態で維持し、将来の供給力不足などに備える仕組みです。通常は市場に供給力として参加しない休止電源を必要なときに立ち上げるもので、即時に起動する予備力(待機予備力)とは時間軸が異なります。
容量市場は費用が過大にならないよう設計されており、あらゆる事態を単独で完全に賄うわけではありません。予備電源は、その外側で追加的に供給力を確保する位置づけです。
三つの仕組みが整ったのち、議論は制度全体の見直しへと移っています。とくに、現行の容量市場が「4年前」に供給力を確保する仕組みであるため、4年を超える先の不確実性(需要増など)に対応しにくい点が課題として挙がっています。
短中期の供給力を確保する新たな「補完オークション」の導入や、予備電源・長期脱炭素の見直しが並行して検討されています。以下は、当サイトが収集する審議会・OCCTOの動きを、「何が変わる・なぜ重要か」の要点とともに更新します。
非効率石炭火力(設計効率42%未満)は本来、年間設備利用率が50%を超えると容量収入を20%減額される。2026年度はLNG調達の不確実性を理由にこの措置を解除。脱炭素との整合をめぐり議論に。
容量市場を補う「補完オークション」を新設する方針。実需給の1〜3年前に、休廃止予定の高経年電源を対象に不足分をまとめて確保する(複数年契約も可)。予備電源とあわせ、4年前調達では対応しにくい短中期の供給力確保を補う狙い。